大学時代、私はローイングの基本は「大きく強く」であると教えられてきました。今回は、このローイングの大前提である「大きく」というところに挑戦していきます。この「大きく」は間違いというのは極端かもしれませんが、特に初心者には大きな誤解を与える表現ではないかと思うようになりました。理由は以下の2点です。

1.何が大きくなのか
まず、ボートを運ぶために何を大きくしないといけないのか。レンジ(漕ぎ幅)? レンジを大きくするにはどうすればよいのか。オールのグリップを大きく前に出す?
グリップを大きく前に出すことを最優先にすると確かに上半身を必死に伸ばしているし、キャッチが重くなるので頑張って漕いでいる感覚になります。「大きく=グリップを大きく出せ」だとパワーの入りにくい体勢で漕いでしまう可能性があります。(これはまさに大学2年生までの私です。)
優先すべきは、股関節をしっかりたたむ等パワーの入る体勢を守った範囲で艇を運ぶことで、見た目やがんばった感重視で無理に体を伸ばさないことです。また、「日本人は、海外の選手よりも体格が劣っている分、レンジで勝負しないといけない」とも教わったことがあります。いやいや、日本人も海外の方も同じ哺乳類、同じ脊椎動物ですから、漕ぎが大きく変わることはあり得ないです。日本の○○や□□大の漕ぎはこうだから、みたいなのは視野が狭くなっている可能性があるので注意が必要だと思います。オリンピックや世界選手権の上位で、一流のクルーをやはりマネしたいですよね。大事なのは、自分の体でパワーをしっかり発揮できる範囲で艇を運ぶことです。体が小さいからといって無理な体勢で漕いでも速くはなりません。(リギングである程度、レンジを調節できます。)
パワーをしっかり発揮できる範囲で漕ぐ!
2.「大きく」はどれだけ優先すべきか
ボートを速く進めるための要素として、「レンジ(漕ぎ幅)」、「パワー」、「レート(漕ぐ回数)」等があります。この3点について考えてみます。
例えば、上記の3点を高めるとボートは速く進みます。これは間違いないと思います。レンジが小さいよりも大きい方が速い、パワーとレートも同様に大きい方が速くなります。
では、この3点に優先順位をつけるとしたら?思考実験をしてみます。
(1)レンジとレートの比較
パワー同じで①レンジ1/2、レート50、②レンジフル、レート20を比べます。これはたぶん①のレートが高い方が勝ちますよね?レースで残り100m、隣の艇とぴったり並んでいる状況。この状況だと大きく漕ぐより、手数で勝負しませんか?新入生歓迎会や飲み会の席にたまたまエルゴがある状況とかでエルゴ100m漕をするとします。(自宅に友人を招いたときに、懐かしさからエルゴやろうぜみたいな流れにこの前なりました。自宅にエルゴがあるので。現役時代はあんなに辛かったのに)エルゴ100m漕ではフルレンジでしっかり漕ぎますか?レートをめちゃくちゃに上げますよね。以上のことから、速く漕ぐには
レンジ<レート
ということができます。(どっちも大事なんだけど強いて言うなら)
膝関節を伸ばすとき、最も力が出せるのが105~135°(ふくらはぎ~ハムストリングスの角度)といわれています。(スクワットをしているとき、一番下に下げたところよりも、上げてきて最後の一押しのところが一番力が入ると思います)したがって、力が一番発揮できるその角度の前後でガンガン漕ぎたいわけです。膝が曲がりきっている50°~膝が伸びきっている180°で漕ぐのがフルレンジなのですが、スタートスパートやエルゴ100m漕なんかは、膝角105~135°の前後のレンジで漕ぐのが一番速くなります。
「そんなにレートを上げたら、2000mもちません。」だから、スタートスパートから、レンジを大きくすることでレートを下げて(漕ぐ回数を減らして)、体力を温存するっていう考え方もありなんだと思います。実際に最近の世界選手権なんかを見ても、超ハイレートで2000m漕ぎきってしまうというレースばかりです。トレーニングで体力をつけて、ハイレートでトップスピードを出す、維持するというのが大事なんだと思います。(めっちゃ辛いですね。口でいうのは簡単)
(2)レンジとパワーの比較
レート20で①フルパワー、ハーフスライド、②ノーワーク、フルレンジを比べます。圧倒的に①フルパワーの方が速いですよね。したがって、
レンジ<パワー
ということができます。
(3)レートとパワーの比較
レンジ同じで①フルパワー、レート20、②ノーワーク、レート30を比べます。フルパワーが勝つと思います。(②はフォワードをすごく頑張らないと)したがって、
レート<パワー
ということができます。
(1)~(3)より、
レンジ<レート<パワー
ということができます。(何度も言いますが、全部大事なんだけど強いて言うならば)
1.パワーが一番大事!日々鍛えていく!
2.体力をつけてハイレートを維持する!
3.状況によってレンジよりもレートを優先する!ex)スタート、ラストスパート、短距離のレース
以上のことから「大きく漕げ!」は間違いもしくは、大きな誤解を与える表現であると考えます。「大きく」の意味をクルー内、チーム内で共有していて、レースの時の合い言葉として使うのはいいのですが、安易に、パワーがないから大きく漕げとか大きく漕げば速くなるんだとかいうのは危険です。艇の運び方についての考え方を整理して、最速を目指していきたいと思います。
パワーが大事、レートが大事って言うと練習がものすごく辛くなる気が。。。
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